鎌倉新フルート合奏団:合奏団便りから
  ジェンキンスについて

ジェンキンスについて

                       栗林道夫(Altoフルート)

 前号(9/28号)で、吉崎勇氏がジェンキンスについて述べていたが、彼女の名誉のためにもこれに反駁し、弁護したいと思う。

 私が初めて彼女の歌を聞いたのは、NHK FMのオペラアワーだったかと記憶している。確かに彼女の歌は、はっきり言って、ものすごくヘッタクソである。

 モーツァルトの「魔笛」の中で「夜の女王」を演じていた。堂々と歌う自信に満ちたその歌は、初めてこれを聞く人にはモーツァルトがそのように作曲したのかと思ってしまうだろう。モーツァルト自身がこれを聞いたら途端に自信を無くしてしまい、以後の作曲をやめてしまったかもしれない。

 一度でもまともな(?)演奏を聞いた人には、そのヘッタクソさは明らかなのであるが、感心するのはオーケストラである。

 「アレッ、おれの音はこれで良いんだっけ」

 などと、オーケストラのメンバーは彼女の歌に引きづられて惑わされてしまうと思うのだが、多分、彼女の歌を無視して演奏を続ける訓練がされていたのだと思う。

 彼女のはずれた音程が時々元に戻るので、オーケストラはそれを見越して戻るときを待ちかまえていなければならない。笑いをこらえてこれを待ち受ける訓練は地獄の苦しみであったと想像する。

 彼女の歌を聞くと、スナックでカラオケを歌うオジサン達の方がはるかにうまい。同時に自分にも自信が涌いてくる。歌は心であり、自信であり、その時のノリである。堂々と詠えばそれなりの良さがでてくるものである。酔っているときは大体が皆自信家である。女性から

 「うまいわネ」とか「すばらしいワ」と言われると、

 「それほどでもないんだけどーーー、テレるナー」

と、まんざらでもない気分になるから不思議である。

 このジェンキンス、世界中の酔っていない人達にも夢と希望とと自信を与えてくれたスーパースターなのである。一刻も早く彼女の後継者が現れないものかと願っている。

 何だかあんまり弁護になっていないような気がしてきた。


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