鎌倉新フルート合奏団:合奏団便りから

  フルートに想う

フルートに想う

                       渡辺光(指揮)

 よい楽器、よい音程、正しい倍音ー一見わかっているようでわからないこと、できているつもりでできないこと、再び自分自身で原点に帰って考えてみた。

 ここで先人のフルート教本の中から楽器についての記述からひとつ。

 J.J.クヴァンツ(1697-1773)はJ.S.バッハと同時期のバロック時代の作曲家、フルート奏者であり自ら楽器制作もしていた人物で、彼が書いた「フルート奏法」中に楽器についての興味深い記述がある。

 「(音程について)よい特質をすべて備えたフルートを持っている人は幸運である。というのは、よい正しい音程をもった楽器はすでに演奏を半分決定しているからである。」

 これが書かれたのは1752年であり、この頃の楽器は現在のような金属ではなく、木製や象牙製のものでキーも1、2個しか付いていなかった。現在のフルートはベームというドイツ人が1847年に考案したものが基になっている。

 フルートはクヴァンツの時代から現在に至るまで、楽器に対してあらゆる手が加えられてきた。一般には改良されてきたというのであろうが、手を加えたことによって失われたものも多いので一概に改良とは言えないというのが、私個人の見解である。いずれにしても時代のニーズに合わせて変化、発展してきたフルートだが、こと音程に関しては現在でもまだ完成と言えないのが現状であろう。

 各メーカーがそれぞれ研究して独自のスケール(音程)を持っていて、音程のいい楽器も出てきているが、それでも最終的には奏者が音程を補正しながら吹くという技術を用いなければならない。音程を補正した場合、補正した分だけ(ひとつの音程を上げるにしても下げるにしても)倍音が狂ってくることになる。ひとつの音に対して正しいポイントはひとつしかない。倍音が上に多ければ上ずって聴こえるし、その逆も然りである。

 奏者が音程の補正を最小限にとどめ、その分の労力をいかに音楽に集中できるか、これが「よい演奏」の大きなポイントになる。いくら音色が良くても音程が悪ければ「音痴」のままである。もちろん人は音楽を聴くとき、音程の良さに感動するわけではないが「音痴」な演奏は誰にでもわかるものだ。

 音程のいい楽器を選ぶことが必須条件になる。

 さて、ここで問題となるのが、何をもって「音程のいい楽器」と言うかである。

 ウィリアム・べネットは、「含まれているすべての倍音が正しい音程で響いている」ことが美しい音=いい楽器の必須条件であるという。どんなに高価な材質であろうとこのことを満たしていなければ、何の価値もない。ベネットの使っているLui Lot ルイ・ロもほとんどのトーンホールが修正されている。つまりそのままではハーモニクスが合わないということなのだ。ちなみに昨年の安曇野におけるべネットのセミナーでは、「この楽器はトーンホールを動かして修正しなければ使い物にならない->ゴミ箱へ」という烙印を押されてしまった楽器を使う受講者が続出、メーカーは主にサンキョウとヤマハだった。今年の同セミナーでも約2名、やはり使用楽器はサンキョウとヤマハ。

 それはさておき、よいフルートの音程は自然倍音で正しく鳴り響く所のつぼを押さえているということなのである。この問題は非常に置くが深く、設計も計算ではだし尽くせない所もあるという。各メーカーによってトーンホールの位置がさまざまなのはこのためで、各メーカーともさらなる研究が行われているようだ。

 ここまで書いてきて、疑問に想うことがいくつか浮かんできた。またさらに勉強してこの続きを書きたいと思う。

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