鎌倉新フルート合奏団:合奏団便りから
タイ報告.2  世界の特殊分割音階

タイ報告.2  世界の特殊分割音階

                                                           平成20年10月2日

                  鈴森武雄

 タイ報告.1でタイの伝統音楽は7分割音階であることを報告したが、他の国にもいろんな分割音階がありそうなので調べてみた。しかしある国の音楽が何分割の音階であり、そこからどの音を取り出して音階が出来ているかはインターネットの中で、特にガムラン音楽については混乱していた。特殊な分割音を聞き分けるのは素人には難しいし、完全に均等に分割されていないなどあいまいなところも多くまた省略される音もあるので素人がうかつに判断しにくい問題ではあろう。聞きかじりや引用をもとに勝手にいろんなことを書いているインターネットの世界であるので混乱が生じているのであろうが、専門家はどこかでしっかりと研究して報告しているはずである。ここでは世界にはいろんな分割音階があるのだという単純な紹介の話にしたい。本文は主にWikipediaを参考にして作成した。

 始めに音律と音階の違いを整理しておきたい。音階には長音階、自然的短音階、旋律的短音階、ヨナ抜き日本の音階などがあり、旋律の構成要素である音の高さを階段状に示して分類したものである。一方音律は純正律、ピタゴラス音律、平均律、ウェル・テンペラメント 、キルンベルガー第3法、ヴェルクマイスター第3法などがあり、各音階の音を周波数や振動数の面から一つ一つの微妙な音の高低をとらえ分類したものである。
本文でいう特殊分割音階は一オクターブを均等にいくつに分割しているかであって、上記の音階や音律とはまた異なった分類である。ただしこの特殊分割も全く均等に分割されているわけでもなくほぼ均等であったり、さらにその中でいくつかの音が省略されていろんな音律、音階がある。この特殊な分割は@タイの古典音楽、インドネシアのガムランに見られる東南アジアの5分割、7分割、9分割の世界、Aインド、トルコ、アラビア音楽に代表され12分割をさらに4分音(微分音)やトルコの全音を9分割した世界、B西洋や中国などの12分割の世界に分れるようである。

ガムラン音楽
ガムランは皆さんご存じのとおり東南アジア・インドネシア・ジャワ島中部の伝統芸能音楽に使われる楽器の総称で、主に金属製の旋律打楽器から形成されている。この音楽が西洋の12音階でないことは間違いないのだが、インターネットの中では5分割、7分割、9分割の各説があり、さらにその分割音からいくつかの音を省略している音階であるので混乱している。

その中でシンセサイザーで有名な富田薫氏の記事(以下4行)が妥当と思われたので以下に示す。ガムラン音楽は西洋音楽で使われている12音階ではなく、1オクターブをほぼ9等分にした(そのうちの7音のみを使用)ペロッグ音階や、1オクターブをほぼ5等分にしたスレンドロ音階という音階を使うため、普段聴いている音楽とは一風変わった、私たちにとっては少し聴き馴染みのない音楽である。

スレンドロ音階や9等分音階(ペロッグ音階)は西洋音楽をやっている人には音程がずれたように聞こえる。聴いた感じはバリとジャワでは結構違っていて、バリはダイナミックで激しく技巧的、ジャワはゆったり優雅な感じである。音楽だけで演奏される他に踊りや影絵芝居等と一緒に上演される。

インドの音階
古代インドの音階は半音より細かな微分音を用いるため複雑である。5世紀ごろに体系化された音楽理論では、1オクターブが22の単位(シュルティ sruti, shruti)に分割され、この中から7つの音が選び出され音階(グラーマ grama)を構成している。音階の各音間は2〜4シュルティ離れている。7つの音にはドレミファソラシのような音名がつけられ以下のように呼ばれる。
  サ(Sa)、リ(Ri)、ガ(Ga)、マ(Ma)、パ(Pa)、ダ(Dha)、ニ(Ni)

但し、これは22の音から選ばれた7つであるから、ピッチの固定されたドレミと違い、その旋法ごとに同じサの音やリの音であってもピッチの異なる音を指すことになる。あくまでも旋法の中での第1音をサ、第2音をリ…と呼んでいるに過ぎない。

この22の音の実際のピッチは、基音の周波数を1とするとおよそ以下のようになる。参考までに、右に一般的な十二音階での音(ただし平均律ではない)を記してある。

第1音 1/1   C 第8音 5/4   " 第15音 128/81  第22音 243/128 
第2音 256/243 第9音 81/64  第16音 8/5  Gis 第1音  2/1  "
第3音 16/15  Cis 第10音 4/3  " 第17音 5/3  A                
第4音 10/9 第11音 27/20 第18音 27/16    
第5音 9/8   ⁄ 第12音 45/32 Fis 第19音 16/9 Ais  
第6音 32/27 第13音 64/45 第20音 9/5  
第7音 6/5    Dis 第14音 3/2  " 第21音 15/8 H  


すなわち、EsとE、AsとA以外の半音間にほぼ4分音に相当する音が存在する体系のようだ。

アラブの音階
アラブ音楽にはマカーム(maqam, 複数形maqamat)と呼ばれる旋法体系が存在する。アラブ圏以外の周辺国でも同様の旋法があり、トルコ、イラン、アゼルバイジャン、ウズベキスタン、新疆ウイグル、モーリタニアではそれぞれの名前が付けられている。これらはいずれもインドのラーガと同じく、微分音程を用いる。そのピッチはマカームごとに異なるというかなり微妙なもののようだ。
代表的なマカームはラースト。半音ではなく、4分の1音下げる記号を仮にqとすると、だいたい次のような「音階」であることが多い。C,D,Eq,F,G,A,Bq。Eqの音はEフラットよりは高いがEナチュラルよりは低い音となる。どの程度になるかは時代・地域・楽派などによって違うが、たとえばEqは音程比27:22(約354.547セント)となる。そのほかたくさんの音階が示してある。

トルコの音階
現在のトルコ古典音楽では、8:9の音程比の全音つまり約203.910セントの音程を9等分する、という音程を最小の音程として使う。約203.910セントの全音を9等分した音程は約22.6セント、53平均律(後記)の1律は約22.642セントであり、これは事実上53平均律にかなり近い。以下大平清氏(サズ奏者)の文章を引用させていただく。

「トルコの伝統音楽、弦楽器サズとハルクミュージック」 
トルコ民族がまだアルタイ山脈周辺で遊牧生活を送っていた時代からの伝統を引き継いでいる音楽がハルクミュージック(国民音楽)。このハルクミュージックでニ千年の歴史を持つといわれる弦楽器サズが用いられている。吟遊詩人の楽器として使われていたが、時代を経て大衆の人たちの間に広がって行った。
<微分音階とアヤックについて>
サズはギターと違い、変則的なフレットになっていて、これはつまり音階がよりたくさんあるということを意味している。トルコの音楽では全音を9分割する微分音程といわれる音階の理論があり、シャープやフラットという半音よりもさらに細かい音(微分音)が日常的に使われている。楽譜は現在では5線譜に特殊な記号を使うなどして微分音を表している。
また、サズの音楽のメロディーラインはアヤック(音列の意)にそっている。例えば基本の5音階からなるアヤックは4つ5つの音だけでもトルコらしいそれなりのメロディーに聞こえる。

その他の平均律
理論的追求によって53平均律というものも存在する。ほぼ純正調で演奏できるという。ボーザンケッ,R.H.M.Bosanquetは1876年に53平均律を用いて1オクターブに53の鍵盤を持つ楽器を発表したが演奏が困難で実用されたとは言い難い。田中正平(1862 〜 1945 大正時代頃の音響学者)も純正調リードオルガンを作製した。

東アフリカのウガンダで用いられる木琴は5平均律に調律されている。

東南アフリカのモザンビークのチョピ族の木琴も7平均律に調律されている。

終りに
世界には12分割平均律ばかりではなく、さまざまな分割音の音楽がある。世界は広いのである。12分割系統は弦の長さを2/3に縮めたり1/3、1/2伸ばしてできる音階であるし、5,7,9分割系統は木の棒を例えば7本並べて1オクターブで斜めに鋸で切れば7分割平均律の木琴ができそうである。したがって12分割平均律の起源は弦楽器から発生したのであろうが、その他の7分割系平均律は木琴などの打楽器がその起源のような気がするがどうであろうか。
 


以上

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