鎌倉新フルート合奏団:合奏団便りから
  低音楽器奏者に愛を!

低音楽器奏者に愛を!

                      小林由佳(Bass Flute)

 フルートに限ったことではないが、低音楽器になる程大きくなり重量は増す。巨大な楽器を持って歩く姿は沿道から小旗を振り、声援を送りたくなる光景である。
 フルートはどこまで軽量化が可能なのだろうか。金属の比重で述べると、洋銀は約8.5g/cm3(合金なので組成差で比重が変わる)、銀(Ag)は10.50g/cm3、金(Au)だと19.32g/cm3である。軽量化といって思い浮かぶ汎用軽金属の代表としてアルミニウム(Al)が挙げられる。Alの比重は2.70g/cm3であり洋銀の3分の1程度の軽さだ。Alでフルートを作るにはどうしたらよいのだろう。
 Alをそのまま楽器に使うとまず腐食という大問題が発生する。ケースを開けて楽器が腐食していたら練習中にバスフルートからタンポが落下するより狼狽するであろう。
そこで、Alに表面処理を施すことを考える。Alの表面処理としては@陽極酸化とAめっきの2つの方法が考えられる。@の陽極酸化は一般にアルマイト処理と呼ばれるものであり、窓のサッシ等にも使われている。処理は比較的簡便で厚みの変化も少ないが、アルマイト皮膜にははんだ付けやロウ付けができない。それに外観も悪い。これでは楽器になりそうもないので、Aめっきの可能性を検証する。
 Alは電位的に卑(つまり金属単体として不安定)なので施しためっき皮膜にピンホール(ナノ〜ミクロンオーダーの小さい穴)があると局部電池となり、著しく腐食してしまう。ピンホールレスを満たすにはAuを何十ミクロンもめっきすればよいが、軽量化を目指しているのに比重の重いAuを大量に乗せることになるので避けたい(そもそもAlに直接Auめっきができない)。中間層として、トータル20μm程度のNi(ニッケル)およびNi合金めっきをし、その上にAuめっき3μm程が妥当と言えよう。この方法であればはんだ付けも可能であり、外観の光沢も得ることができる。
 ではこれで一体どのくらい軽量化ができたのだろうか。ノーマルフルートの重さを銀450gと仮定する。Alにできるのはめっきによる寸法精度上全体の70%程度と考えられる。Alになる部分を315gと仮定する。めっき表面積を900cm2とする。めっき中間層は比重8.9g/cm3で20μmとし、金は3μmとする。
 Al部分・・・315g÷10.50g/cm3×2.70g/cm3=81g
めっき皮膜・・・
0.00089g/(cm2・μm)×900cm2×20μm+0.00193 g/(cm2・μm)×900cm2×3μm=21.23g
 これにAl以外の重さを足して・・・81g+21.23g+135g=237.23g


 ではバスフルートやコントラバスフルートに適用してみる。(バスおよびコンバスは比重8.9g/cm3のキュプロニッケルとして計算) 
       バス・・・現状1200g(仮定)→682g
        コンバス・・・現状4000g(仮定)→2273g

※ バス、コンバスは表面積の計算に誤差があると思われるので実際は多少異なる。
あくまでも仮定です。

 さて、こうして「仮想」の軽量化に成功したわけだが、肝心の音はどうなるのだろうか。こればかりは数値に基づく議論はできないが、フルートの音色が最外皮膜金属の種類に依存するのであれば、このフルートは金めっきが最外なので「金の音」が出るはずである。管厚に依存するのであればAlの管厚をコントロールすればよいのでたいした問題はない。しかし管体の重さに依存するとなるとこの楽器からはたいそう貧弱な音が出ることになる。さて真相は?
うまくいけば重さ約240gで金の音が出る(かもしれない)フルート。いかがですか?
将来コントラバスフルートを片手に持ってスキップする安藤さんが見られるかもしれない。
(別に私はバスフルートが重いと文句を言っているわけではありません。念のため。)

・・・ここまで書いてからこのスペースは自己紹介をする場だと伺いました。
小林由佳と申します。ゼピュロスに入っています。フルートを「持った」のは14歳のときですが、果てしない期間のブランクがあるので「吹いた」という意味では実質2,3年くらいだと思います。
長いブランクの間は耳の黒いネズミに魅せられ、学生をやりつつ浦安にある聖地に全力を注いでいました。
 五百川先生は私の姉です(?)。よろしくお願いします。



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