鎌倉新フルート合奏団:合奏団便りから
  音の遠達性

音の遠達性

鈴森武雄(Flute)

 フルートの音量はオーケストラやブラスバンドなどの他の楽器に比べてかなり小さく、ピアノの音量にも負けてしまう。また大きなホールでは聞こえづらいので、どうすれば大きい負けない音が出るか、音を遠くまで明瞭に伝えるにはどうすればいいかはフルート吹き共通の悩みである。あるアマチュアオケを聞いていた時、フルートソロの部分がアマチュアから有名なプロ奏者に変わった時、オーケストラの中から急にフルートの音がくっきりと大きな音で聞こえてきて驚いた事がある。奏者によっても音量は大きく異なっている。

 会場の大きさやその特性にもよるので一概に比較は出来ないが、これまでに聞いた演奏家のなかで、大きな音で驚いたのはパユ、ベネットであった。私が教わった先生の中でT先生は初めのレッスンで耳が痛くなるほどの大音響で私を驚かせてくれたし、K先生は私が苦手な低音のC、Hなどまでバリバリに音が出ていた。演奏者、演奏方法によってもフルートの音量は大きく異なっている。

 大きな音を出す根源となる息の量の多さ、早い空気速度、それでも音が裏返らない唇のコントロール方法などが有りそうであるし、音は共鳴で大きくなっているので、フルートの円筒のなかで十分共鳴させる奏法・技術がありそうである。

 大きな音を出すことが遠くまで音を運ぶ前提であるが、音量は同じでも遠達性は異なるのであろうか。楽器メーカーは金の笛が遠達性に優れていると宣伝しているが、果たして材質の影響があるのであろうか。遠くまで音が伝わる経験は雷、飛行機、野球の掛け声などであるが、何れももともとの音が大きく広い空間で音をさえぎるものが無いなどが共通している。

 遠くまで音を伝える道具に汽笛があり、船舶用汽笛メーカーの記事(日経ビジネンスH18年5月15日号)が面白かったので紹介しておきたい。伊吹工業というメーカーは1922年創立の船舶用汽笛メーカーで世界の50%のシェアーを占めているとの事である。汽笛は国際条約や海上衝突予防法施工規則第18条で船の長さに応じて音量、音圧、周波数が定められている。例えば200メートル以上の大型船では143デシベル以上の音を発し、2海里(約3.7km)離れた船舶まで届かせる必要があるとの事である。周波数は大型船舶で110Hz、小型になると660Hz程度のようで、大型の船ほど低い音となっている。汽笛は遠く外洋まで航海する大型船に設置されることから頑丈さ、故障の無さ、修理のしやすさが必要で、規格化された音のなかで遠くまできちんと届く事が要求されるとのことである。この遠達性の技術に同社が世界でNo1になっているゆえんがあるとの事で、音色にその秘密があり徹底的に音色にこだわっているとの事で興味深かった。ちなみに前記施工規則第20条に『どら』について、大きさや音量の決まりとともに、澄んだ音色を発するものであることという規定があり面白い。

 汽笛のボーという音色は心臓の鼓動に似ており、車のクラクションと違って不快感のない人間の感性に訴える何かを持った音色にしているとの事である。汽笛のイメージで笛を吹けば、いい音がホールのスミズミまでしっかりと届きそうですね。


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