鎌倉新フルート合奏団:合奏団便りから
  サロメ

サロメ

                      鈴森武雄(1stFlute)


最近オペラも面白いと思うようになってきた。東京で唯一の本格的オペラ劇場である新国立劇場はどんなところであろうか、3月4日サロメを見に行くことにした。

これまでオペラには縁が薄く最近までほとんど見たことはなかった。今までに見たのは、二期会の人たちの定期的にやっている小規模なオペラの合唱の一人として83歳という年齢にもかかわらす現役の合唱狂いの母が昨年の暮れに舞台に出た「魔笛」と、友人が誘ってくれて途中で天国と地獄のカンカンが出てきて驚いた「こうもり」、及び大学の先輩に二期会の事務局長がいて、二期会創立50周年記念でこれだけは見ておけと強引に誘われた「バラの騎士」のみである。

海外からの引越し公演のオペラは高くて手が出ないが、国の補助や予算もあるのであろう、新国立劇場のオペラははるかに安い。貧乏人にとってそれでも高いので一番安い席(3150円)を購入することにした。オペラのチケットは安い方から完売になっていくので、チケット発売開始15分前に並び、最上階4階の天井桟敷最後列の席をかろうじて購入した。

師匠にサロメを見に行きますと言ったところ、よく見える高倍率の望遠鏡を持って期待して行けとのことであった。オペラグラスを持っているはずもなく、ズーム付の高倍率の双眼鏡を持って勇んで出かけた。

サロメの七つのベールの踊りの部分だけは聞いたことがあるが、リヒヤルトシュトラウスの音楽にも興味があった。一応オスカー・ワイルドsc恆存訳の岩波文庫を読んでおいた。これも面白かった。

新国立劇場に入ってエレベーターで4階まで上がり、狭い通路を通って最後列の席にたどり着き、いかにもオペラ通然として座った。

そこから眺めると舞台は直下1階遥か下方である。さらにオーケストラピットが掘り下げてあり、高所恐怖症の私には恐ろしい席であった。崖っぷちやジェットコースターのお好きな方、大観覧車の頂上でゴンドラを揺すったりする方には楽しめる席であろう。ホール内はすべて木で覆われ、真紅の特大の緞帳が垂れ下がっていて良い雰囲気であった。いろいろな楽器の練習の音が聞こえてきたが、フルートもちゃんと聞こえ、こんな席でも以外に音は良さそうである。オケピットは舞台の下まで入り込む構造で広く大編成のオケが並んでいた。

主役の3人と指揮者は外人で、他の歌手とオーケストラは日本人であり、宣伝によればサロメは欧米では一流のサロメ歌手との事であった。オペラが始まってサロメやヨハナーン(首を切られる預言者ヨハネ)が登場してきた。この二人の声がすばらしく感激した。特にバリトンのヨハナーンは声量があり美声でよかった。

歌手のピアニッシモの声が4階まできちんと聞こえたし、オケの音もホールの響きが加わって良い音で4階まで登ってきた。新国立劇場の天井桟敷は音響の面では非常にお得である。

リヒヤルトシュトラウス独特の和音、オーケストレーション、描写音楽等がとても面白く、オーケストラの東京交響楽団も好演であったが、ティンパニーが大活躍していた。

舞台は正面にヨハナーンが閉じ込められている井戸があり、中央奥にアラビア風の天幕の部屋がしつらえられ、なかなか凝った良い舞台であった。サロメは一幕もので休憩なしに同じ舞台で一気に演じられるので、アラビア風天幕で舞台の変化を演出していた。

注目の七つのベールの踊りは、7枚のベールだけを身につけたサロメが踊りながらベールを一枚ずつ脱いでいき、最後にその褒美として、愛がかなわなかったヨハナーンの首を王に望むというものであり、このオペラ最大の見せ場である。双眼鏡をしっかりにぎりしめて期待して覗いたが、身につけていたベールが一枚ずつ少なくなってきたとき高倍率の双眼鏡に飛び込んできたのは「だぶだぶお肉の超3段腹」であった。双眼鏡が思わず4階から1階に落ちていった。

期待していたサロメは若くはなく、近くの席に座って鳥の羽を飾った帽子の女性たちは、もう私たちもこんなオペラは出来ないわね、サロメは45歳よなどと話をしていた。

ドロドロのストーリーと迫力ある音楽に引き込まれて十分堪能させてくれたオペラではあった。

「師匠あれは詐欺です!!」。

「いやいや申し訳ない。いつもは胸が丸見えになる演出が多いんだが。それにそんな歌手の時はそこを吹き替えでやるんだが」。

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