鎌倉新フルート合奏団:合奏団便りから
  笛の練習法

笛の練習法

                      鈴森武雄(1stFlute)

フルートを○十年も吹いているのに、なかなか上手にはならない。しかしアマチュアにとって、定年をそろそろ迎えつつあるこの年齢でも年々少しずつではあるが上達を実感出来ることは楽しみの一つである。5年前、10年前には練習の対象にもならなかった曲が何とか吹けるようになっていたり、指の廻りぐあいをチェックすることにしている曲を何年ぶりかに吹いてみると指がスムーズに動くようになっているなど具体的に進歩が確認できる。もともとレベルが低いので上達する余地がまだまだ残されているためであろう。プロの場合には音楽性を別にして、テクニックの面でこの年齢でこのようなことを感じるのは少ないのではなかろうか。

最近G〜Aのターンとトリルが出てくる曲を練習することになったが、指が回らないので通勤電車の中で左手薬指を可能な限りの速度で上下させて練習をした(合奏団でもこの練習をやっているとの話しがあった)。初めの2週間は効果があって少しは早く出来るようになったが、その後は進歩が止まっている。フルートの指使いは両隣の指が上がっているか下がっているかの違いはあるが上げるか下げるかしかなく、指が単独でそれなりに上下に速く動くことが演奏の必須の前提条件であろう。薬指で効果があったので他の8本の指も時間をかければもう少し早く動くようになるのではないかという淡い期待をもって、思い出したときに練習している。しかし今の所薬指以外で効果のほどは定かではない。

薬指のほかに左手人差し指の動きが悪い。電車の中でC〜C#のトリルを練習していると気味悪そうに私を眺めてそっと胸のポケットに手をやる人がいた。この練習の指の形はスリのマークであり、猛烈な指の運動はスリの練習!!と間違われてしまった。ポケットのなかの財布の有無を確認していたのであった。私としてはピアニストかバイオリニストと間違えてほしかった。

また電車のシートに座って上記の指の練習をしていたとき、隣の席の人からじろりとにらまれた。指の振動が伝わって居眠りの邪魔になったらしい。

練習曲の中に3拍子で1小節に4拍を数える3拍4連が出てきて立ち往生した。練習法は3拍を12個に分けて、4グループに分割し3拍子のなかで4拍として練習するのが良いらしい。これも時間をかけて慣れるしかない。つり革にぶら下がって3拍の拍子をとって4個タンギングを入れる練習をした。タンギングの音がいつの間にか大きくなっていたようで、またまた目の前のシートに座っている人からうさん臭そうににらまれた。どうも精神状態に問題がある危なげな人物と思われたらしい(普段もそう見えますよと言っているのは誰ですか)。

 ダブルタンギングが明確でないので、tuku、tukuを逆にkutu、kutuで練習したら良いという話を聞いた。電車の中での練習に良いことはないので、犬の散歩をしながら練習した。初めはなかなか出来なかったが、これはやがて出来るようになった。音が明確になったどうかはよく分からないが、ダブルタンギングの速度が速くなった。これはお勧めの練習方法である。

 タンギングについてエミリーベイノンは舌を唇から出して引っ込めるとき破裂するような非常にくっきりした音のタンギングをしていた。最近はこんな奏法も広がってきているのだろうか。ミシェル・デボストによれば予め鼻から息を出す予備動作と合わせて、フランス式タンギングと紹介している(フルート演奏の秘訣p−69)。電車に座ってプップッと練習していると息がかかったのか、つばが飛んだのか隣の人から肘鉄を食らった。

 もう一つ電車の中で出来そうなのが循環呼吸法の練習である。この練習方法について大橋史櫻氏の小冊子が出ており、その他インターネットにもいろいろ記事があるが、高木綾子氏がコップとストローで息比べをしたなどというのも掲載されている。

デボスト(前期の本p−92)によればこれは現代的テクニックとして有名であるがその起源はおそらく管楽器の歴史と同じくらい古く、世界中でとりわけアフリカとアジアで実践されている。循環呼吸法の一つはほおを膨らませてエアーポケットを作るものであり、現在のフルーティストのなかでも強く勧める人がいる。しかしデボストはこの方法ではひどく音色を変えない限りはうまくいった試しはないといい、口腔の空気を頼りにするが、舌をすばやく前に動かして空気を追い出すと述べている。

尺八にもこの奏法があると聞いたが、オーストラリアの先住民アボリジニが奏でる横笛ディジュリドゥでは息を吹き込みながら唇を震わせ、口や筒の中に共鳴させることで豊かな倍音に彩られた独特の音を発生させる。それを循環呼吸法で吹いて太古の時代を連想させる神秘的な音を放つという。これによれば循環呼吸法を2ヶ月で習得出来ると書いてある。一般的にこの循環呼吸法は非常に難しい技術と言われているが、やってみれば練習しだいで意外に出来るのではなかろうか。合奏団のどなたかトライされてみてはいかがであろうか。上記アボリジニの演奏法で面白いのは唇を震わす奏法である。尺八ではあの時の音がこの奏法であったのだろうと心当たりがあるが、フルートで演奏可能であろうか。フルートでもどこかで聞いたような気もするが定かではない。

循環呼吸法を少しトライしてみた。フルートなしで唇を小さくしぼめてごく少し空気を吐き出す状態では、慌てることなくゆっくり息を吸うことが出来るので何とか循環呼吸になりそうである。この循環呼吸の初めの練習は電車の中でも出来そうではあるが、やたら口をもぐもぐさせるので、変人とみなされかねない。覚悟の上で練習下さい。

最後に循環呼吸法の中でも超超絶技巧を紹介したい。星川京児氏の世界音紀行によると、チベットのギャンリンでは左肺と右肺を交互に使うという。これで循環呼吸法が出来たら超超絶技巧克服記念の食事代、飲み代は私持ちにして差し上げたい。どうぞチャレンジ下さい。

大橋史櫻、循環呼吸法 
http://www.hi-ho.ne.jp/foohashi/

高木綾子、循環呼吸法 http://www.janis.or.jp/users/aze/report09.htm

ミシェル・デボスト  
フルート演奏の秘訣(音楽之友社)

ディジュリドゥとは  http://www.yk.rim.or.jp/~gamoage/jada/Pages/didge.html

星川京児  世界音紀行  
http://www.min-on.or.jp/cube/h_column14.html

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