鎌倉新フルート合奏団:合奏団便りから
  上海出張報告

上海出張報告

                      鈴森武雄(1stFlute)

  某コンピュータ会社の中国での3500人の大カンファレンス・展示会で昨年11月3日から5泊六日の上海出張となった。本投稿はその仕事の空き時間の報告である。以前合奏団便りに膜のある中国の笛「笛子」を紹介したが、この笛を現地で聞いて、購入してくることを楽しみにしていたのである。

   上海は予想に反して東京をしのぐ近代的な大都会であった。テレビ塔は東京タワーをしのぐ400数十メートルの未来志向型のタワーであったし、宿泊したハイヤットホテルは横浜ランドマークタワーをはるかにしのぐ85階の超高層ビルで、このようなとてつもない高層ビルが上海中ニョキニョキと竹の子のように生えていた。

   上海に到着した当日は市内の中央を流れる揚子江の一支流の船上中華レストランでの夕食であった。ここでさっそく笛子と楊琴(注−1)の演奏を聞くことができた。膜のある中国独特の笛子は音量が大きく表現力が豊かで、美人の演奏による楊琴との相性もすばらしく、中国に来たという気持ちになった。笛子の奏者に上海音楽院の陸春玲(合奏団便り H11年10月 笛子 参照)を知っているか聞いたところ、彼の先生だとのことであった。大阪にも演奏で来たことがあるといっていたので、それなりの人のようである。名前は笛子がHou Shou Xin 、揚琴Wu Lan Tou Yoとのことであった。彼とはシャングリラホテルでのパーティーの席でも再び顔を合わせた。この時は笛子、二胡、琵琶、揚琴の組み合わせであった。この四種類の組み合わせは他でも見かけたので、中国民族楽器によるアンサンブルの基本的組み合わせのようである。

(注―1) コダーイのハーリヤーノシュでハンガリーのチンバロンが活躍していたのをテレビで見たが、楊琴はチンバロンを一回り小さくしたそっくりの楽器で、音色も金属絃をたたく同系統のもの。

   中国の楽器は日本に比べて非常に多様である。中国の広大な国土、多くの少数民族、長い歴史とシルクロードを通した文化の交流の結果であろうが、私がかって4年ほど滞在していた韓国と日本の楽器を比較して、当然ながら韓国の楽器は中国と共通のものが多く、音楽の面で、日本よりはるかに、中国に近い文化を感じさせる。これらの楽器はインターネットやいろんな本で参照でき、見ているだけでも楽しい。

   上海蟹は秋解禁であるが、この出張はちょうどよいシーズンで、上海蟹のフルコース(蟹全席)のレストランに出かけた。小振りの蟹で食べではないが、私にとってものめずらしさもあって、堪能した。

   今回のカンファレンス最後の夜は主催者による野外でのアトラクションと夕食会であった。上海雑技団、京劇、民族合奏、舞踏、歌等さまざまなアトラクションであったが、民族合奏は胡弓、楊琴、笛子(二人)、チャルメラ(のような楽器、二人)、太鼓(二人)、笙、と中編成で、音楽はまさに中国そのものの、にぎやか(けたたましい)で楽しい音楽であった。また京劇も役者は二名という少ないメンバーであったが、伴奏はフル編成の規模の大きいものであった。参考に京劇の楽器に関するホームページを添付する。一方すばらしいスタイルの女性たちの肌もあらわな衣装でのジャズや洋楽のダンスは、これが共産主義の中国かと驚かされた。

   仕事の合間に笛子を購入に出かけた。前記の笛子奏者にどこで買えばよいか聞きそびれてしまったので、ホテルフロントの女の子の「豫園なら有るのじゃない」というのに従って、購入に出かけた。豫園は上海の有名な公園であるが、そのそばに中国風建築が延々とそびえる広大なお土産ショッピング・中華料理店ゾーンとなっているところであり、その雰囲気は言葉では説明が不可能で、写真を見ていただくしかない。中国各地からの観光客が必ず訪れる場所とのことで、非常な賑わいであった。言葉が通じないので、その迷路みたいななかを延々、ぐるぐると歩き回る羽目になった。途中路上で笛子売りのおじさんがいて、20元(300円)なので、とりあえず購入した。おじさんはそんな安物でも、すいすいと上手に吹きこなしていた。その後、すごい行列が出来ている有名なショウロンポーの店などを横目で眺めつつ、とにかくぐるぐる走り回って、ついに中国楽器を売っている店にたどり着いた。複雑な迷路の豫園の中は又来ることが有っても絶対の自信をもってガイド出来る。その店には胡弓や琵琶など中国楽器と一緒に笛子もならべてあった。笛子はグレード(価格)が何種類もある上、いろんな調子のものがあるので、結構な数が置いてある。フルートの相性からC調の270元(約4000円)のものを購入することにした。竜の彫刻も入っていて見栄えもそれなりのものである。真っ赤な一見豪華そうなビロード袋に相性よく収まっている。

   ホテルで吹いてみたが音はきちんとよく出ていた。韓国の膜のある横笛はいまだ音が出ないが、笛子はフルートやピッコロと同じ吹き方で音が出る。ただし日本に帰って吹いてみると、非常に音が出にくい。多分膜の状態が変化してしまったせいであろう。張り替え用の葦の膜も買ってきたので、近く試してみる予定である。だだし膜をぴんと張るのか、少しゆとりを持たせるのがよいかよく分からない。笛子は音孔が6個で、キーはない。いろんな調子のものが有るにしても、これで驚異的テクニックの演奏をしてしまうのには感心するほかない。

   カンファレンスは三日で終わり、上海の半日の観光をした。上海は歴史の浅い都市であるので、それほど見るべきものはない。但し上海博物館の中国の青銅器、景徳鎮を中心とした陶磁器、書画、少数民族衣装等の膨大なすばらしいコレクションに圧倒された。陶磁器や書などに趣味のある人には最高の場所であろう。私には猫に小判であるが、陶磁器を中心に写真を撮っておいた。音楽に関係があったのは、青銅器時代の鐘(10個の大小の鐘による楽器 )と、漢時代の縦笛か尺八の彫像等であった。

   今回の大会ではさらに北京、西安、桂林、蘇州のなかから一泊の観光コースが組み込まれていて、私は蘇州コースに参加した。蘇州は上海から高速バスで3,4時間、BC500年呉時代の首都であったところで、運河の張り巡らされた水の都である。

   歴史ある寒山寺、ピサの斜塔より古くて傾いた大きな塔のある虎丘(たまたまお祭りでにぎやかな行列、催しを見ることが出来た)、中国四大名園の一つである留園などを見て回った。また蘇州のシアターレストランで中国楽器の演奏や超美人ぞろいの民族舞踊、手品、雑技を楽しんだが、いずれもレベルの高い内容であった。きちんとした教育環境があり、蘇州ではこのような場所が最高の公演の場所であるためなのであろう。中国琵琶だけの8人の演奏もあった。日本と違って中国琵琶は重要で演奏者の多い楽器のようである。アムダのコンサートでわれわれとも一緒に演奏して頂いた楊宝元さんを思い出したりしながら聞いていた。足裏マッサージも快適で、全身マッサージを追加したほどであるが、中国の物価からすればかなり高かった。

   当合奏団団員から「いったい何の出張ですか、仕事は何もやってこなかったでしょう。」といわれること必定である。本文は仕事以外に限っての報告であるので、あくまでも誤解のないように。

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